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2007年7月31日火曜日

アリエルの御前会議(第2試合イントロ)




 第1試合敗戦の方を聞いてアセル・ロゥレンの重鎮達は、女王アリエルの御座す古の樫の下に集まった・・・

***
 アセル・ロゥレンの女王アリエルは古の樫の足元に拵えられた玉座に腰掛けていた。
 玉座の前に作られた広場には、アセル・ロゥレンに住まう貴人や、将軍達が集まっていた。
 「ブレトニア軍に負けたのは、オリオンを助けるヴェイラリオスが不甲斐無かった故で有りましょう。試合とは言え次も負けを喫する事があれば我等の沽券に関る事でございます。こうなればこのイヴェリオンと”黄金龍”ナルスがヴェイラリオスに代わって王をお助け申しましょうぞ。」
 女王に奏上したのは”龍騎将軍”と呼ばれるアスライ、イヴェリオンだった。
 彼の隣りには、金色に輝く鱗に覆われた巨大な体躯をきちんと丸めたフォレストドラゴン”黄金龍”ナルスが持していた。

 「アリエル殿、そなたとオリオンとは永い付き合いじゃ。此度はわしが力を貸すのも良かろう。」
 そうアリエルに言うのはツリーマンの古老、”白樺”のザイ=モゥグだった。
 古く年老いた白樺の様な身体を持つ彼は、若い(といっても最も歳若い者であれ、ツリーマンを「若い」と言えるのはスランくらいの者だろう)ツリーマンに比べると背は低いが、その手足は大樹の幹の様に太かった。
 「まあ待て、ヴェイラリオスはまだ若い。こういう機会を与えてやるのも今後の為には良かろう。だが女王陛下の命ずる所であれば、このエルヴァリオンも老骨に鞭打って戦いましょうぞ。」
 これは”老将”エルヴァリオンの言である。
 大老会議にも名を連ねる彼は、アスライ達の中では最も古株の戦士の1人であり、その顔には彼の長い人生を窺わせる深い皺が刻まれていた。
 何でも彼の祖母はウルサーンの貴族の出であったそうな・・・
 ロゥレンの戦士達にとってこの試合は直接森の存亡がかかる物では無かったが、「ロゥレンの軍勢組し易し」と他国に思われる事は好ましい事では無かった。
 今は同盟を組む3つの国も、時と場合によっては常に味方であるとは限らないのだ。
 「冬が来る度に気安く森に侵入されてはたまらない」のである。
 我こそはと思うロゥレンの将軍達は、各々が”楽園の騎士”ヴェイラリオスに代わって”樹海の王君”オリオンの補佐役を務めようと女王アリエルに申し出た。
 中でも若く野心に溢れた”龍騎将軍”イヴェリオンはこの大役を仰せつかろうと、他の諸将よりも強く主張していた。
 同年代のヴェイラリオスよりも自分こそがオリオンの補佐役として相応しいと信じていた。
 「オウリィエル(ワイルドライダー)達は近衛に過ぎん。副将として軍団をまとめるならば空駆ける俺の方が向いている。」
 それがイヴェリオンの主張だった。
 それに対して”老将”エルヴァリオンは慎重だった。
 エルヴァリオンはいささか無鉄砲なヴェイラリオスの戦法を良しとはしなかったが、時に見せる勇気と思い切りの良さを快く思っていた。
 一度の敗戦で彼から役を奪う事は避けたかった。
 彼は戦地に赴いてヴェイラリオスに経験と知恵を授けたいと思っていたのだった。
 そうして諸将の主張が出揃うとアリエルは目を閉じて思考を巡らせていたが、程なく目を開くとそこに居た全員に彼女の決定を述べた。
 「此度の主将を務めるのはあくまでも”樹海の王君”にして我が夫オリオンぞ。此度の事についてはオリオンにお任せしているからにはオリオンにお決め頂くのが正しかろう。」
 「”白樺”のザイ=モゥグ殿、”老将”エルヴァリオン、”龍騎将軍”イヴェリオンよ、そち達はエスファンの野に赴いて次なる戦いに向けてオリオンのご決断を仰ぐが良い。」
 アリエルの決定が下されると、その場に居た者達は沈黙と礼を以てその決定に従う意を示した。
 「エスファンの野にお前の金色の翼を広げてやろうぞ。」イヴェリオンが、そう”黄金龍”ナルスに語りかけると、ナルスは静かに頷くのだった。

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