既に日は天高く上り、観戦用天幕ではルーエン公が用意させた料理が振舞われていた。
非常に手間を掛けて作られた料理は、地元の農民が作った肉や野菜がふんだんに使われていた。
普段粗食に慣れていたヴェイラリオスも口には出さない物のまんざらでもない様子で、料理を口に運びながら戦況を眺めていた。
戦場では帝国軍の背後に突如地面を割って現れたドワーフの鉱夫の一団が、帝国軍の砲陣地に迫っていた。
着々と迫るドワーフ達を前にして帝国の砲兵達は、目前の鉱夫達ではなく、戦場中央に進軍している至高王ソルグリム公に狙いを定めていた。
「思い切りが良いな。あの砲兵は」
そう呟いたのは食事を取らずに戦場を注視していたオリオンだった。
間もなく轟音と黒煙を伴って大砲から発射された砲弾は、狙いを違えずにソルグリム公その人に命中した。
この砲弾を受けた兵は、大抵の場合鎧ごとその体をバラバラに砕かれてしまうのだが、巨大な玉座の加護を受けたソルグリム公は相当の重傷を負いながらも、毅然として玉座に座りなおし、彼の周囲を固める衛兵達を叱咤していた。
「あの御輿は飾りではないらしい」
ヴェイラリオスは感嘆の呟きをもらした。
そして今度は林の中に隠されたドワーフの金床が先程とは違う音を響かせた。
すると戦場に居たドワーフ戦士の一団がエルフの足でも敵わぬ程の速さで帝国騎士めがけて走り出した。
しかし、もう少しで突撃かと言うところでその速度は急速に衰えてしまった。
「突撃には失敗したが、なかなか厄介な物を使って居られるな。」
これはルーエン公の弁だ。
こうして激しい応酬を続けていく内に、次第に日は傾いていった。
そして今日何度目であったか帝国軍の大砲が吐き出した砲弾が、今度は大軍旗を掲げるドワーフのセインを直撃した。
風になびきながらゆっくりと軍旗が倒れると、ドワーフ達にどよめきが走った。
そして皇帝カール・フランツが駆るドラゴンが、遂にソルグリム公率いる近衛兵隊に躍りこむと、公に1対1の一騎打ちを申し込んだ。
誇り高いソルグリム公は、今や斧を構えるのがやっとの状態であったが、この一騎打ちを受けて立った。
そして次の瞬間帝国の至宝とも称される「ガールマラッツ」と呼ばれる大きな鉄槌(これを作ったのはドワーフなのだそうな)がソルグリム公に振り下ろされると、遂にソルグリム公は玉座の上で力尽きてしまった。
ソルグリム公が戦場を退いた後も、頑固なドワーフ達は粘り強く戦いを続けていたが、少しづつその数を減らし、日が暮れる頃には戦いの帰趨は決していた。
「もう良かろう。カイエンよ、行ってくれ」
ルーエン公はそう言って、彼の傍らに座していた位の高そうな若い騎士(彼は今日1日完全武装のまま王と共にここで観戦をしていた)に命ずると、その若い騎士は大柄な馬に飛び乗って戦場にかけていった。
間もなく彼が演習の終わりを告げると、必死の形相で戦っていた両軍の兵達は、緊張を解いてその場に座り込む者、互いに握手を交わす者等殺伐とした戦場は一変して安堵感と疲労感に包まれた。
もっとも負傷兵を治療する為に待機していたダムゼル達の戦いはこれからであった。
2 件のコメント:
髭帝国のルーンパワーは「力の大玉座」に
「破滅の金床」だけじゃないですから^^
次の対戦は御用心?デスゾ!
ドワーフ軍の対戦解説はみんな親切に書いて
頂けてて有り難いデスヨ♪
>天さん
今一所懸命ドワーフのアーミーブックに目を通していますが、コンビネーションが多すぎて覚え切れません。
或る程度覚悟を決めて戦うしか無さそうですね。
対戦解説はちょっと端折り過ぎたので、ドワーフの見せ場が書き切れてないかなと思っていましたが、良かったです。
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