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2007年7月12日木曜日

憂鬱なる諸王会議(四人の王イントロ2)



 ”獅子心王”ルーエンの招きに応じてエスファンに出向いた”樹海の王君”オリオンとその近習達であったが・・・

 「これがあのオリオンか…」
 “楽園の騎士”ヴェイラリオスは隣りに座した“樹海の王君”オリオンを横目に観ながら心中そうつぶやいた。

 来るべき大いなる災厄に備えるべく、ブレトニア国王“獅子心王”ルーエン公がケンネル公領はエスファンの野に程近いこの古城において開いた諸王会議は、既に今宵で7日目の夜となっていた。
 既に城としての用を成さず、打ち捨てられていたこの城は、3週間前から慌ただしく大掃除が行われ、辺りの農民達を村ごと一時使役に駆り出して、この城の周囲はこの10日前から無人地帯となっていた。
 この古い城砦に帝国皇帝であるカール・フランツやドワーフの至高王“恨みを背負いし者”ソルグリムが、自国を留守にして出向いている事を、他国に知られる訳には行かなかったし、巨大で恐ろしいウッドエルフの王“樹海の王君”オリオンが農民達の目に触れれば、恐れおののいた農民達がどの様な騒動を起こすか知れたものではなかった。
 周りに人が少ないこの城を選んだのは、ルーエン公と側近達の苦心の賜物だった。

 当初ルーエン公は城内の礼拝所にテーブルを据えたのだが、初代皇帝シグマー・ヘルデンハンマーを天主としたシグマー教を国教とする、皇帝カール・フランツは他国の神の前での会議を良しとしなかったし、至高王ソルグリムが「これ以外に腰を下ろしてはならぬと」累代の祖先から厳命され、4人の屈強なドワーフに担がれた巨大な玉座は、そもそもこの礼拝所の入り口を通り抜ける事は出来なかった。
 大いなる災厄に備えて一刻も時が惜しいルーエン公は「それではソルグリム殿、皆立って会議を…」と言いかけたその言を胸に押し留めた。
 そんな不用意な一言で、ソルグリム公が片時も離さぬ「大いなる怨恨の書」に新たな1行を書き加えられてはたまらないからだ。
 そんな訳で会議のテーブルは急遽中庭に張られた大きな天幕の中で行われる事となった。
 始めの内、ヴェイラリオスはこうしたやり取りを眺めて面白がっていた。
 (権威にとらわれた者は、時として滑稽だな。)
 そういうことである。

 結局“樹海の王君”オリオンは、皇帝カール・フランツが土産に持ってきたオウガの傭兵隊長が使う大きな椅子に腰を据えて会議のテーブルに列席する事となった。
 「帝国皇帝と言う奴は案外まめな男だな。」
 ヴェイラリオスは同じくオリオンに付き従っていた“歌う者”ヴェルーダに話しかけたものだ。
 そうして会議の幕を開けたのが7日前の朝の事であった。
 4国の連合軍が、南下を始める前の敵軍をエンパイア国境よりも北で迎え撃つと言う事については初日の昼前に全員が同意をしていたが、その連合軍の総指揮を誰が取るかで4者の主張が分かれてしまった。

 ルーエン公は、会議を主催した自分が指揮権を握るのが当然だと思っていた様だ(最初に他の王から反対意見が出た時には、その驚きを表に出さぬ様に随分と辛抱を強いられた様子だった)。

 人類を統率する者としての自負を持つ帝国皇帝カール・フランツは、ブレトニア軍の指揮下で動く事はプライドが許さなかったし、4つの連合軍の中で最大の兵を動員するのはエンパイアであった。
 そんな訳で皇帝カール・フランツは兵士の数から言って自分が全軍の指揮を執るのが正当だと主張して譲らなかった。

 ドワーフの至高王ソルグリム公はそもそも「年端の行かぬ」人間達に指揮権を委ねる事など思いもよらぬ事だった(齢90と言われるルーエンでさえ、彼の孫娘よりも年下なのだ!)。

 3人の王は互いに主張を曲げず、会議は平行線をたどった。
 3者が意見を主張しあう中、“樹海の王君”オリオンは新しい椅子(この座り心地についてはオリオンも満更ではなかった)の革張りの肘掛に左肘を立て、頬杖を突きながら目の前の会議を傍観し続けていた。
 オリオン自身にとっては、自らが率いて戦う戦士はアスライと精霊だけで十分だったし、誰が連合軍を率いても構わないと思っていた(その誰かの言う事を素直に聞くかどうかはオリオン本人にも自身は無かったが)。
 アスライや森の精霊が疲れることはそうそう有ることでは無いが、オリオンにとっては、ただひたすらテーブルを囲み同じ話を延々と続ける事は苦痛以外の何物でもなかった。
 時折3人の王の1人がオリオンに意見を求める事も有ったが、オリオンはその度に 「真に相応しき御仁が全軍を統べるのならば、俺は死を恐れずに戦ってご覧に入れる。」(「どうでも良いから早く決めろ」と返すのはヴェイラリオスの忠告を聞いてかろうじて抑えた)
 と答えるのみで、そうするとまた「如何に自分こそはその役目に相応しい人物であるか」を3人が3様に主張を繰り返すのだった。
 そんなやり取りを繰り返して今や7晩目の夜も更けて行こうとしていた。
 延々と続く会議に精強な3人の王も疲労の色を隠せなかったし、敬愛する皇帝に泣いて詫びながら右手が動かなくなってしまった書記官が担架で運ばれていくのを見るのは既に3回を数えた。
 普段ロゥレンの森を奔放に走り回っているオリオンは、すっかりうんざりしていた。
 それを横目で見ていたヴェイラリオスには、巨体を誇る“樹海の王君”が一回りも小さくなってしまった様に見えたのだった。

 既に何度繰り返したか解らない(書記官だけは必死に記録していたが)遣り取りがまたも繰り返されようとした時、“獅子心王”ルーエン公がその台詞を口にした。
 「誰も主張を譲らぬのであれば、各々が互いに戦ってその相応しきは誰かを決めれば良いではないか!?」
 口にした一瞬後、ルーエン公は思わず顔を顰めてしまった。

 同盟を求めて会議を開いたと言うのに、互いに戦をしようなどとは…

 その場の空気が凍りついた瞬間だった。
 (やれやれ、同盟の前に同士討ちか?混沌の暗黒神がさぞ喜ぶ事だろうな)
 ヴェイラリオスは内心苦笑したが、次の瞬間隣の席で椅子が倒れる大きな音がした。

 「“獅子心王”ルーエン殿の言や良し!!」

 普段の活気を取り戻し、周りの雰囲気にも関らず嬉々としてルーエン公に同意を表したのは、他ならぬオリオンだった。
 「武人たる者、その相応しきは戦にて決めるのが正しき道理ではないか!」
 始めはルーエン公の発言に態度を決めかねていた2人は、意気揚々とまくし立てるオリオンの勢いに図らずも同意した。
 正直な所その場にいた全員が主張の堂々巡りに疲れ果てていたので、この目先の結論に向かって一気に流れていったのだった。

 互いに「刃を交える」とは言え、本当に互いの兵を傷つけ合っては敵を利する事に他ならなかったので、傷ついた兵を治療する為に国中からダムゼル達を招集する事となった。
 召集の為に更に1月を要すると言う事で、四人の王は1月後に再びエスファンに集う運びとなった。

 会議に出席していた将軍や諸侯達は、7晩目の終わりを告げる朝焼けの中で疲労や安堵が混ざり合った奇妙な表情を浮かべて他国の貴族に再会を祈る旨の挨拶を交わしていた。
 オリオンはそんな諸侯の心中を察する事もなく、彼にしては極めて珍しい上機嫌で再会の礼に応えていた。

 「結局この御仁は、戦場を駆け回る事が出来ればそれで良いのだな」
 オリオンを横目に見ながらヴェイラリオスは小さく呟き、そして何苦笑とも付かぬ表情を浮かべてヴェルーダに言った。

 「まあ…こういうオリオンは嫌いではない…」

2 件のコメント:

天 さんのコメント...

オウガの椅子に小さくなって座ってる
オリオンなんてチョット見てみたいヨネ^^
そう考えると物語の内容に彩を添えるのは
ミニチュア画像だけでなくて挿絵とかも
活躍しそうダヨネ♪

スノット さんのコメント...

>天さん
実は挿絵も一緒に載せる予定でしたが、時間の都合でスキャンが間に合いませんでした。
今日にでも載せるつもりです。