オリオン率いる樹海の戦士達とルーエン公の騎士達との試合の前日・・・
オリオンはルーエン公がエスファンの野を見渡す高台に用意した観戦用の天幕で片肘をついて皇帝カール・フランツ率いるエンパイア軍と至高王ソルグリム率いるドワーフ軍とが行う試合を観戦していた。
観戦席には”樹海の王君”オリオンの他に、ヴェイラリオスとヴェルーダ、それにアルドールが同席していた。
そして彼らと隣席して、ルーエン公と彼の側近が同席していた。
ブレトニアの貴族達はヴェルーダに興味津々の様子だった。
ブレトニア貴族からすれば、エルフの女性は滅多に見る事は無かったし、彼女はエルフの中でも美しい女性だった。
彼らはさりげなく(少なくとも本人はそう思っていた様だ)時折彼女を覗き見ようとしていたが、間に着座していたアルドールがその度に、こちらもさりげなく身を屈めたり仰け反ったりして彼らの視線を妨げていた。
ヴェイラリオスはその様子を見ながら複雑な気持ちで苦笑したものだ。
やがて朝靄が晴れると、両軍の布陣が露になった。
オリオンが隣りに座るヴェイラリオスに呟く様に話しかけた。
「ドワーフ達は数が少ないな。精鋭で固めてきた様子だな。」
「皇帝はドラゴンを連れてきたようだな。それにあちら側には鉄の亀が居るぞ。」
オリオンは退屈そうにしていながら、意外と細かく両軍を観察していた。
ソルグリム公はこちらにも届くほどの大きな声で全軍に激を飛ばしていた。
「我らが軍勢!これ鎖帷子と例ゆ!皆、各々が鉄の輪なり!義務、名誉、忠誠によりて繋がれし綻び無き鎖帷子、如何なる刃も通す事なし!故に如何なる攻撃も団結せる我等の前には無力なり!!」
「長い口上だ」
アスライから見るとあまりにも長い前口上にヴェイラリオスは呟いた。
ソルグリムが激を飛ばす間に帝国軍は進軍を開始していた。
そして辺りにけたたましい音を響かせて巨大な鋼鉄の亀(帝国軍ではタンク(貯蔵庫)と呼ぶのだそうな)が前進すると、轟音を上げて前方に突き出た主砲から人の頭程の大きさの砲弾が飛び出した。
砲弾は弧を描いて標的のドワーフ軍自慢の連射砲めがけて飛んで行き、見事に命中したのだが、目だった損害は見受けられなかった。
それに応えるように今度はドワーフの火炎砲から火球弾が発射された。
これも狙い違わず帝国軍の砲陣地に着弾したが、何故か火が出ずに帝国兵は大量のタールを被るのみであった。
「火が出ぬのでは花火にもならんな。」
オリオンが退屈そうに言った。
火を吹き上げる所を期待していたらしい。
しかしそうしたオリオンの呟きをかき消す様に辺りに甲高い打音が鳴り響いた。
正体不明のこの音に天幕の中はざわめいたが、ルーエン公が口を開いた。
「ドワーフが使う「破滅の金床」でござるな。どうやらカール・フランツ殿のドラゴンが飛べなくなったようじゃ。」
「歯がゆいな。俺ならばあんな音で怖気づいたりはしないぞ。」
オリオンが少し苛立たしげに言った。
そしてまた両軍の間に火砲の応酬が始まった。
先程はお互いにやや不発気味だったのだが、今度はお互いの兵がバタバタと倒れていった。
そして先程タンクの砲火をしのいだ連射砲が、前方の重装の騎士に向かって火を噴くと、その矢玉は帝国騎士の重厚な造りの鎧を貫いて(ヴェイラリオスには千切った様にもみえた)幾人もの騎士が落馬し、動かなくなった。
(ルーエン公は治療すると言っていたが、あんな状態で果たして治療が出来るのだろうか?)
ヴェイラリオスは疑問を持たずには居られなかった。
0 件のコメント:
コメントを投稿