オリオンは早速”楽園の騎士”ヴェイラリオスに軍団の召集を命じるのだった。
グリスメリー川を渡って灰色山脈に跨るこの樹林に足を踏み入れる事は、“楽園の騎士”ヴェイラリオスにしても珍しい事だった。
「諸王会議」を終えて王君の樹林に戻った“樹海の王君”オリオンはヴェイラリオスにこう言ったのだった。
「諸王会議」を終えて王君の樹林に戻った“樹海の王君”オリオンはヴェイラリオスにこう言ったのだった。
「ヴェイラリオスよ!戦が近いぞ。野生の乗り手達を招集せよ。それからお前の他にも戦士が必要だ。…アルドールが良い!あ奴を呼んで来るのだ。」
オリオンが戦いの事について行う指図は大抵的を得ていたので、ヴェイラリオスは事これについて異論を挟む事は無かった。
とはいえヴェイラリオスは心中肩をすくめた。
(よりによってアルドールとは…難儀な役を事も無げに言う)
灰色山脈の斜面に沿って樹林を進んでいくと(最早樹林と言うよりは山と言うべきであったが)アルドールが棲家としている洞迄はそれ程遠くは無い筈だった。
灰色山脈の斜面に沿って樹林を進んでいくと(最早樹林と言うよりは山と言うべきであったが)アルドールが棲家としている洞迄はそれ程遠くは無い筈だった。
ヴェイラリオスも、また彼に同行していた“歌う者”ヴェルーダも、既に馬を麓に残してこの山道(“道”と呼べればだが)を歩いて登っていた。
人間の騎士ならこんな時には乗馬の腕前の見せ所とばかりに馬を駆るのだが、大事な相棒である馬に無駄な負担をかけないのがアスライの流儀なのだ。
アルドールは「ラゥス=クルゥン」とアスライ達が呼ぶ「血族」に属するアスライだった。
「血族」とは言っても「ラゥス=クルゥン」は他の血族と違って共同で血族としての生活はせず、専ら1人きりであたかも行者の様な孤独な生活を送る。
この奇妙な生活を送るアスライは、やがて森に生きる他の生き物の能力を取り込む術を習得していくのだ。
獣の速さで山野を駆け抜け、猛禽の用心深さを身に着けた狩人となる。
その特別な能力からアスライ達は「ラゥス=クルゥン」を「オルター」(変化)の血族と言う別の呼び名で言い表す事も有る。
アルドールもそうしたアスライの1人だった。
どれ程の間登り続けたか、樹林を抜けてアルドールの領域を示す境界石を通り過ぎると、足元に巨石が横たわる松の木に辿り着いた。
どれ程の間登り続けたか、樹林を抜けてアルドールの領域を示す境界石を通り過ぎると、足元に巨石が横たわる松の木に辿り着いた。
巨石の下には人一人が通れる隙間があり、その奥が拡がって洞穴を形作っていた。
アルドールは洞穴を留守にしていた。
そこは清潔には保たれていたが、生活の為に使う粗末な道具や食料が無造作に置かれているのみだった。
アスライ達は「ラゥス=クルゥン」に連なる彼を「貴人」と呼ぶのだが、この洞を見る限りその雰囲気は感じられない。
「貴人と言うよりは野人だな。 これは」
洞の中を覗いたヴェイラリオスはそう言った。
「あなたも王の林では同じような暮らしをしているのではなかったかしら?」
ヴェルーダは“楽園の騎士”にそう返した。
ヴェイラリオスはその言葉に憤慨するでもなくうそぶいた。
「オウリイェル(ワイルドライダー)はオリオンの近衛だ。ラゥス=クルゥンとは違うさ。」
「アルドールがどうあれオリオンが彼を望んでいるのよ。多分もうすぐ帰ってくる筈だわ。」
二人がそこでアルドールの帰りを待っていると、やがてヴェイラリオスの耳に蹄の音が届いてきた。
ヴェイラリオスがヴェルーダと目を合わせると、彼女もその音を聞き取った様子だった。
蹄の音に耳を済ませていると、次第に近づいてきた音がはたと止まった。
「俺達に気が付いたらしいな。」
彼がヴェルーダに話しかけると、今度は蹄の音が少しづつ遠のき始めた。
その音を聞き取ったヴェイラリオスは飛び跳ねる様に洞穴を飛び出した。
今を逃せば俊足を誇るアルドールに対して、馬に乗っていないヴェイラリオスが追いつく術は無かっただろう。
洞の外に出たヴェイラリオスは、今や走り去ろうとするアルドールに大声で呼びかけた。
「待て、アルドール!“鹿の蹄”のアルドールよ!!」
ラゥス=クルゥンへと「変化」を遂げたアルドールは、エルフであってエルフではない。
全身にうっすらと体毛を生やし、顔には頬髯と呼べる程にもみ上げをのばしていた。
そしてなんと言っても目を引くのは、オリオンの様に、鹿の蹄に「変化」した両足だった。
彼は呼びかけられると、その足を止めて彼の方に振り向いてこう言い放った。
「なんだ、誰かと思えばヴェイラリオスじゃないか。何をしに来たか知らんが俺は付き合わんぞ、あんた1人で帰ってくれ。」
「いきなりご挨拶だな。オリオンがお前をお呼びなのでわざわざこうして来たんだぜ。」
ヴェイラリオスがそう答えるとアルドールはそのままの姿勢で言った。
「オリオンが俺をお呼びと言う事はまた戦か? 戦は御免だ。俺は戦が嫌いだ。」
「いや、確かに戦は戦だが、エスファンの野で4つの国軍が試合をするのだ。」
ヴェイラリオスがそう答えると、またアルドールは口を開いた。
「なんだ、試合か? お遊びならなおの事俺が付き合う必要は無いだろう?」
(こいつ、俺のような事を言いやがる)
ヴェイラリオスは内心そう思った。
どうもこのままでは埒が開かぬ様子であった。
「お久しぶりね。“鹿の蹄”のアルドール。」
じりじりと苛立ちを募らせるヴェイラリオスの後からヴェルーダがアルドールに向けて声をかけた。
その声にアルドールは目を向けたが、ヴェイラリオスはその目の色が自分を見る目とは明らかに違っている事に気が付いた。
「お、ああ、ヴェルーダ。あなたも来ていたのか…」
アルドールは何やら照れくさそうに、ややぎこちない返事でヴェルーダに応じた。
(何だ?こいつはヴェルーダを好いているのか?それにしてもまるで年端も行かぬ子供のような応対だな)
ぎこちないアルドールにヴェルーダは続けた。
「オリオンは今度の試合にはあなたが必要だとおっしゃっているのよ。 私もあなたが来るならすばらしいと思うわ。」
ヴェルーダにそう言われたアルドールは、暫く考えている様子だったがこう返事をした。
「お遊びかもしれないが、久々に“樹海の王君”と共に戦場に赴くのも良いかもしれないな。 ましてやあなたがそれを望むのなら。」
アルドールはあっさりとその頑なな態度を翻してしまった。
「お遊びかもしれないが、久々に“樹海の王君”と共に戦場に赴くのも良いかもしれないな。 ましてやあなたがそれを望むのなら。」
アルドールはあっさりとその頑なな態度を翻してしまった。
「待っていろ。今支度をする。」
そう言ってアルドールは洞に戻っていそいそと支度を始めた。
「アルドールがヴェルーダに気が有るとは意外だったな。」
「アルドールがヴェルーダに気が有るとは意外だったな。」
ヴェイラリオスは、頑固者があっさり言う事を聞いてくれたので、安堵しながらヴェルーダに話しかけた。
「ああ、その事なら前から知っていました事よ。」
ヴェイラリオスの言葉にヴェルーダは微笑を浮かべながら返した。
「すると、あんたがどうしても同行したいと言ったのはその為か?」
ヴェイラリオスがそう聞くと、ヴェルーダは軽くうなずいた。
ヴェイラリオスはなんだかアルドールが不憫に思えてしまった。
2 件のコメント:
アルドールって、ちょっと自分とかぶっている気が・・・僕も、好きな子にはバレバレな態度をとっちゃいます。男って・・・
>ZONOさん
ビギナーズトーナメント予選突破叶った様ですね。
おめでとう御座います!
僕もアルドールに似た部分が有ります。
「素直じゃないけど憎めない奴」
と言うキャラクターにしてみたかったのですがどうでしょうか?
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