灰色山脈を下りてパラヴォン公領を抜け、ケンネル公領に入ると、エスファンの野はすぐ近くだった。
「あっちに行け、こっちに来いと面倒くさい事だな。俺の体は一つしかないと言うのに・・・」
馬上で”楽園の騎士”ヴェイラリオスはそうぼやいた。
「面倒くさいのは俺の方だ。わざわざタラベックランドまで使いに行った俺の身になれよ!」
ヴェイラリオスの傍らで歩を進める”鹿の蹄”のアルドールは、彼のぼやきにそう返すと更に続けるのだった。
「本当ならエルヴァリオンの親父が副将を務める事になっていたんだが、親父殿はどうしてもあんたが必要だとオリオンに意地を張ったのさ。」
エスファンに到着した二人を出迎えたのは”老将”エルヴァリオンと”歌う者”ヴェルーダだった。
「遥々ご苦労。今回は我儘を通してしまったよ。」
と声をかけるエルヴァリオンにヴェイラリオスは返した。
「で、俺の代わりにイヴェリオンがエンパイアに向かう訳ですか?」
問いかけるヴェイラリオスに老エルフは肩をすくめる様な仕草をしてこう返した。
「イヴェリオンはワシの意見に承服出来ぬそうだ。互いに剣を交えてその優劣を示したいとオリオンに申し出た。」
「オリオンはそれをお認めになった訳ですな?」
やや諦めの表情でヴェイラリオスがそう言うと、エルヴァリオンは少し感心した様子で応じた。
「さすがはオリオンの近衛たる”楽園の騎士”だ。オリオンの事を解っておる。まぁワシから見てもその決め方はそう悪くないだろう。」
「やれやれ・・・他人の都合で闘うのは何度目だ?」
ヴェイラリオスはそう呟くのだった。
オリオンに拝謁するともうイヴェリオンは準備をしていた。
「この役目は俺にしか務まらん。それをここで証明してみせる。」
これはイヴェリオンの弁だ。
それを聞き流す風情で聞きながらヴェイラリオスも武装を整えると
「面倒くさいが相手になってやる。納得したらさっさと帰れよ。」
挑発する様に言い放つと愛用の槍を構えた。
「始め!」
エルヴァリオンが合図を出すと、二人はオリオンの御前で刃を交えた。
イヴェリオンの両手持ちの長剣は鋭い太刀筋でヴェイラリオスの急所を狙うのだが、彼の肩にのった蜘蛛の様な小妖精が糸を吐き出して、斬撃をその都度からめ取ってしまった。
そしてヴェイラリオスの槍は次第にイヴェリオンを追い詰めて行くと遂に急所に槍を突きつけた。
「そこまで!もういい。」
オリオンが勝負ありを告げるとヴェイラリオスはゆっくりと槍を戻した。
イヴェリオンは苛立たしげに立ち上がった。
何か言いたげなイヴェリオンだったが、オリオンの御前でもあったのでその言をなんとか飲み込み、オリオンに一礼するとヴェイラリオスを睨みつけてその場を立ち去った。
「またくだらん理由で恨みを買ってしまった・・・」
ヴェイラリオスは内心舌打ちをした。
***
今回は王様リーグの最終戦でもあり、Sinさんを負かさないとリーグの勝者がほぼ決定してしまいそうなのでかなり悩みましたが、結局ヴェイラリオスに帰ってきてもらう事にしました。
0 件のコメント:
コメントを投稿